僕の知人が、7年の歳月を経て、
やっと、おきなわマラソンを完走できたそうです。
走ったコトの無い僕ではありますが、
彼の、嬉しそうで、
そして、自信に満ちた顔を見ているだけで、
何だか、幸せな気持ちになりました。
ちなみに彼は、60代半ばの男性です。
来年も参加して、
可能なら完走したいとのコト。
いつまでも、走り続けて欲しいと思います。
生き甲斐とは、そう言うモノだからです。
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僕が沖縄に移り住んだのは、もう19年も昔のコトです。
そんな移住の当初、僕は那覇市公設市場の並びとなる、
水上店舗の屋上にあった、小さな居酒屋のお手伝いをしていました。
那覇空港近くのアパートに暮していた僕は、
週に数回、自転車で通っていました。
アルバイトではなく、ボランティアです。
やんばるのオバアが店主で、
彼女の自宅は、首里にありましたが、
脚の悪かった彼女は、
店に布団を敷いて寝泊まりしていました。
彼女は、当時80歳、
僕は40歳になったばかりでした。
ある本がキッカケで彼女のコトを知り、
その生き様に共感して、お店の手伝いを始めたのですが、
沖縄も初体験、やんばるは未体験の僕に、
オバアも、お客様も、温かく接して下さいました。
そんな中、お店の常連さんが、
やんばるの海で収穫したモーイを、
お土産と称して、
大量に持ち込んで頂けるコトが度々あって、
モーイの下拵えをする彼女を、
僕は、見よう見まねで手伝いました。
モーイとは、イバラノリの別名で、
細長く腰の強い海藻のため、洗うのに一苦労します。
砂や貝殻の欠片を、
モーイが抱き込んでいるからです。
火にかけると、強い粘りの出る特性があって、
他の具材と一緒に、出汁で炊いて、型で冷やせば、
寒天状の一品を作るコトができ、
これを、沖縄では「モーイ豆腐」と言うのですが、
実際には、大豆は使いませんので、
豆腐ではありません。
沖縄県民でも、若い人には馴染みの無いレシピですが、
僕は移住当初から、この店で賄いとして食べさせてもらい、
何度となく、彼女と一緒に作りもしました。
彼女は、お客様から生のモーイを頂戴していましたが、
僕が最近入手したのは、乾燥したモーイで、
那覇市公設市場などへ行けば、運が良ければ購入できます。
僕の作る純菜食仕様のモーイ豆腐レシピは、
こちらの投稿でご紹介していますので、
今日は、このオバアとの、
心温まるエピソードをお届けしたいと思います。
先に、「やんばるのオバア」と書きましたが、
彼女は関東出身の女性でした。
東京に仕事で出て来た、やんばる出身の男性に、
彼女は一目惚れされ、沖縄に嫁いで来たのです。
いわゆる、ナイチャー嫁です。
僕が沖縄に移住して来た時には、
ご主人は既に他界されていました。
かなり破天荒なご主人だったようで、
そんな彼を慕って、
オバアの居酒屋を訪れるお客様も少なくありませんでした。
僕は、移住し立てで、言葉もママなりませんでしたが、
やんばるの風習や作法も色々と教わり、
彼女をはじめとして、
多くのお客様に可愛がって頂きました。
僕の買って出たお手伝いは、
お店の営業中の雑務は勿論でしたが、
実際には定休日や時間外の仕事の方が多く、
戦後からの歳月の中で、
壊れかけていた店舗の修繕を、主に任されていました。
中でも最も大変だったのは、
保健所の検査に合格するために、
シンク周りを補強し、換気扇の漏電を修理し、
網戸や窓を全部洗い、
床のモルタルの亀裂を繕うなどの作業を、
相当の短期間で工事した時でした。
集中した甲斐あって、検査にパスしたときの、
嬉しそうな彼女の顔は、今でもハッキリ覚えています。
検査合格のお祝いにと、
綺麗になった店舗のカウンターで、
僕はビールを、彼女は梅酒を飲みました。
もちろん、肴はモーイ豆腐です。
そして、僕がバツイチだと知った彼女は、
自分が、あと10歳若かったら、
僕の嫁になってやるのに…と、大真面目に語りました。
しかも、「嫁になってやる」のであって、
「嫁にして欲しい」ではありません(笑)
ですが仮に、彼女が10歳若くても、年の差は30歳です。
どうして、20歳や30歳ではなく、
10歳若かったらなのかと尋ねた僕に、彼女は笑って言いました。
あと10歳若ければ、誰が見たってお似合いだよ。
こう見えて、わたしは若いからね。
彼女の精神年齢は、その居酒屋を訪れる同年代の女性より、
確かに相当若かったのは確かでした。
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保健所からの営業延長許可の下りた翌年、
猛烈な台風が那覇を襲いました。
僕の住んでいた、那覇空港近くのアパートでも、
かなり大きな被害が出ましたが、
彼女の愛したその店は、そのときの風雨で潰れてしまいました。
お店を失った彼女は、急激に老け込み、
そして、追い打ちをかけるように、病院暮らしが始まり、
その2年後、彼女は他界してしまいました。
彼女にとって、あの壊れかけていた居酒屋は、
生き甲斐、そのモノだったのです。
彼女の生き甲斐を、修繕出来たあの頃の日々を、
僕は誇りに思っています。
そして、僕が他界する時には、
きっと彼女が迎えに来るんだろうなと思っています。
モーイ豆腐で、また一緒に飲むためにです。
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